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2008年6月26日 (木)

人間の行動パターン

携帯電話の位置情報を使った人間の行動パターンの研究が、Nature 6月5日号の表紙を飾りました。

A.-L. Barabasiの研究グループ(M. Gonzalez, C. Hidalgo)からの成果です。A.-L. Barabasiは、ボストンにあるNortheastern大学 複雑ネットワーク研究センタのディレクタで、スケールフリーネットワークの生成原理の発見で有名ですね。

研究の成果は、人間は多様であるにもかかわらず、その行動パターンはほぼ同じ分布関数で記述できる、という発見にあります。私が惹かれたのは、行動の距離的なスケールは人それぞれバラバラなのに、距離を規格化した後の行動パターンはほぼ同じ、という知見です。極端な例ですが、家でガーデニングを楽しむ退職者と世界中を飛び回るビジネスエグゼクティブの行動パターンは同じ、と言い換えると、画期的な知見であることがわかるでしょう。

動物の行動パターンは、ランダムウォークの一種であるLevy flightであることがわかっています。Levy flightでは、一回の移動距離rの分布関数はP(r)∝r^-bとなります。人間の場合には、さっきの退職者とエグゼクティブのように、移動距離のスケールは人それぞれ大きく違います。しかし、10万人の携帯電話利用者(ヨーロッパの国らしい)の位置を6ヶ月にわたって追跡したデータを解析した結果から、分布関数はtruncated power law P(r)∝(r+r1)^-b・exp(-r/r2)であることがわかりました。

人の所在地のパターンがばらつく要因には、さっきの行動の距離的なスケールだけでなく、移動の異方性もあります。毎日、電車で通勤・通学していれば、その路線とは直行する方向への移動は少ないはずです。しかし、所在地をx方向、y方向の分散値で規格化すると、どの人の所在地も同じ等方的な分布関数に従います。

また、いくつかのよく行く場所の所在確率が非常に高いのです。時間で見ると、24時間の整数倍の周期で、同じ場所に戻っています。人の行動パターンは規則的で、似ているわけです。

私は、さきほど述べた理由から、この研究の発見に惹かれました。しかし、一方で、定性的にはそんなの初めからわかってた、と感じる人も多いと思います。私も、携帯電話利用者をサンプルにした時点で、産業化・情報化の進んだ先進国の社会人や学生を選んだわけで、家と職場・学校との往復が行動の基本パターンで類似しているのは自明、と突っ込みたくなります。

社会科学としては、人間の行動パターンはほぼ同じ分布関数で記述できるのはいいとして、では、それはなぜなのでしょう?

こんな素朴な疑問が沸いてきます。

  • 狩猟・農耕社会から産業・情報社会へ変化するなかで、このような社会的な要因は、人間の行動パターンをどう制約し、規定しているのか?
  • たくさんの人を吸い寄せる商業施設やスタジアムといったホットスポットが、局所的には行動に影響するように思うが、ミクロな解像度で見ると行動パターンはどう見えるのか?
  • 新しい環境で、人間はどのような過程を経て、どのような行動パターンに落ち着くのか? 例えば、就職して新しい街に引っ越したら、行動パターンはどう変わっていくのか?

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コメント

素晴らしい思考回路だと思います。物事の構造分解により、新たな発見と知識が生まれると考えています。この世にある全てを分解することで新たな開発や事業、新世界への進出へ繋がると考えます。しかし、人間は心がある生き物です。悪の心(自己の欲のみに溺れる者)でなく、善の心(この世を残すために共存を考える者)とで、破滅への道へ歩み兼ねません。私も今や人の上に立つ人間ですが、日々勉強中です。非常に楽しいです。ヒト科と分類される動物に非常に興味があり、仕事を通じて、実験中です。

投稿: ssk=scn | 2012年3月24日 (土) 22時43分

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