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2008年7月10日 (木)

デザインを重ねて編み出すイノベーション

イノベーションの原理のひとつに、「重ねる」があります。

重ねて新しい全体をつくる行為、簡単に言えば発明のことです。心理学のゲシュタルト形成のように聞こえますが、多くの人が共通に持つ自然な知覚の獲得とは異なります。驚きに満ちた、しかし、多くの人が共感できるアーティスティックな創作に喩えるべきものです。

重ねる行為には、重ねたところを貼り合わせるノリや、重なりが少ないところを埋めるパテが必要になります。TRIZの発明原理のよう な言い方をすると、有用な力の媒介・増強、不用な力の反射・遮断のための場の導入となります。例えば、被写体とフィルムだけでは写真を撮ることはできず、被写体からの光線をフィルムに導いて結像させるレンズが必要です。

このようなノリ・パテをイメージしながら全体をつくり出す直感を活性化させるには、対象領域の視覚化・言語化が有効です。

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これは、2007年度グッドデザイン賞を受賞した56作品を視覚化したグラフの例です。グラフには、類似したデザインを含むクラスタがあります。さらに、クラスタの間の隙間を埋めてノリ・パテの役割を果たす隠れた構造を赤ノードと赤リンクで示しています。赤リンクの両端の作品(またはクラスタ)を重ねて新しい全体をつくる行為が、イノベーションのひとつのパターンになります。このグラフは、東京大 大澤研究室で発明されたイノベーション・ゲームで活用されていますし、企業で特許アイディアの発想支援に利用された実績もあります。

これから、グラフを作成する方法を説明します。まず、処理するデータについての定義です。

  • item[i]: i番目の作品の名前。iは作品の種類を表すインデックス。
  • description[i]: i番目の作品の説明。
  • word[j]: description[]に現れる単語。jは単語の種類を表すインデックス。

データの処理には、5つの作業が含まれます。

  1. key[k]: word[]の中で、2つ以上の作品の説明に現れるキーワードの抽出。kはキーワードの種類を表す。
  2. data[k]: key[k]を含むdescription[]が説明するitem[]の集合の作成。
  3. cluster[l]: data[k]をもとに、item[]をC個のクラスタに分類した際のl番目のクラスタが含むitem[]の集合の導出。
  4. DE[k]: cluster[]の間の隙間を埋めてノリ・パテの役割を果たす、data[k]に中に潜む隠れた構造の探索。
  5. 描画ツールにより、cluster[l]とDE[k]をグラフに描画。

作業1.は、問題の特性に応じてデータを整形するプリプロセスです。テキスト処理の場合は、上記の作業1.が典型的です。作業2.~4.は定型 処理なため、プログラム(anneachan.exe version 2.1)で自動化されています。作業5.は、polarisなどの描画ツールの仕事です。

引き続き、anneachanの使い方(作業2.~4.)を説明します。

超簡単な準備

準備するものは、anneachan.exe (プログラム本体)と処理するCSVファイル(*.csv)の2つです。作業2.の入力ですので、CSVファイルのk行 目がdata[k]を表します。作品の名前がコンマ区切りで並んでいます。これらを同一のディレクトリに置きます。以下の説明では、このディレ クトリを C:\an> とします。他のディレクトリに置いてもかまいません。anneachan.exeが受け取る引数はひとつで、クラスタ数です。クラ スタ数が採りうる値は、1からノード数までの範囲になります。視覚化したグラフで人間が同時に認知できる事象は7つ位なので、クラスタ 数は5からせいぜい20位がよいでしょう。anneachan.exeは、処理するCSVファイルを標準入力から読み込み、描画のための結果のCSVファイ ルを標準出力へ書き出します。anneachan.exeは、コマンドプロンプト(MS-DOS)から起動します。

超簡単な実行例

cd C:\an>
C:\an> anneachan 10 < infile.csv > outfile.csv
この例では、クラスタ数=10で、標準入力から読み込むCSVファイルがinfile.csv、標準出力へ書き出すCSVファイルがoutfile.csvです。フ ァイル名は任意です。< や > は、MS-DOSの標準入出力からのリダイレクトを表します。

超簡単な描画

anneachan.exeは、標準出力の他に、描画ツールへの入力パラメータを画面(エラー出力)に表示します。ここでは、polarisを想定していま す。polarisの解析→実行でoutfile.csvを描画する際に、黒ノード数(作品の数)を変更してはいけません。変更すると、グラフが崩れます 。赤ノード数は調節可能で、anneachanが表示した値より小さくてもよいです。黒リンク数(クラスタ内の作品間のリンクの数)も調節可能で 、見やすいように変更できます。描画に現れる赤ノードDEkは、標準入力から読み込むCSVファイルのk行目(先頭はk=0行目と数える)に潜む 隠れた構造を示します。anneachan.exeは空白行を読ま込まずに飛ばすので、空白行があるとkの対応関係がずれるので注意が必要です。

anneachan.exeは、クラスタリングをベースとしたヒューリスティックな手法を実装しています。一方、最尤法を応用して、観測データを生成するネットワーク構造と隠れた未知構造を推測するノード発見問題への確率論的な手法も研究しています。この手法は非常に精度が高いのですが、計算時間がかかる問題と、まだ適用限界が明らかではないという問題があります。当面は、anneachan.exeが手軽で使いやすいと思います。

「anneachan.zip」をダウンロード

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コメント

こんにちは

anneachanを実行したのですが、出力が「萌え、萌え、、、」ばかりとなります。やり方が悪いのでしょうか。

イノべーションゲームに使う、シーズカードのKeyGraph表示は、やはり、anneachanとpolarisを組合せないとだめでしょうか。

投稿: masa | 2009年12月23日 (水) 15時08分

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